オセロの中島知子さんが、「洗脳騒動」についてインタビューを受け、現在の心境を語りましたが、その件でTBSテレビ「アッコにおまかせ!」のスタッフさんから電話があり、取材を受けました。
中島さんは「洗脳されていない」と言っていましたが、実際に洗脳されている人は、「自分は洗脳されている」などと言いませんし、洗脳から解かれたとしたら、「私は洗脳されていた」と冷静に認識できるはずですので、中島さんは間違いなく、洗脳されていたし、今でも洗脳されたままなのではないかと思いました。
もちろん、広義の意味においては、人は誰でも、いろいろなものに洗脳されていますし、洗脳されていることにも気づかず、なかなか洗脳から抜け出せもしません。
カルト教団やオカルト愛好家に限らず、意識的にも無意識的にも、洗脳的なコミュニケーションを仕掛けてくる人はどこにでもいますし、私たちは日常的に、そのようなコミュニケーションに対して、無防備に、簡単に洗脳されてしまいます。(詳しくは、拙著「人の心を操る技術」をお読みください)
洗脳は珍しいことではないし、すべてが害になるわけでもありませんが、社会生活を送るのに支障が出るほど相手に影響を受け、行動を支配されると、「あの人は洗脳されている!」と意識されるようになるのだと思います。
中島さんの話から、「占い師」がどのように中島さんをコントロールしていたのか、多くのヒントが隠されていました。
ひとつだけ例をあげて、解説したいと思います。
質問者:「部屋からピンクの家具が運び出されてましたけども、あれも全部言われて買ったんだって伝わっていたんですが……」
中島:「家具のセンスがあまりなくて、だけど家具が好きなんです。それで買うときに『ピンクどう思います? かわいくないっすか?』って、『あ、かわいいんじゃない? でもこれ高くない?』って言われても、自分がかわいいと思ったらやっぱり『よし!』って買うほうなんで」
(中略)
質問者:「貯金も本当に切り崩してなくなってた?」
中島:「ないです。自分で貯金は率先してなくしてたんで、引越しもそうですし、家具も服もすべて」
まず、中島さんが「家具のセンスがない」と自分で思っており、わざわざ「ピンクどう思います?」と占い師に相談しているところから、中島さんと占い師の関係性が読み取れると思います。
洗脳する際、相手の自信を失くさせるのはとても有効です。自信がないからこそ、その人の言うことにしがみつきたくなるからです。そのため、組織的に洗脳を行う集団においては、まずは相手の人格を徹底的に攻撃し、相手を否定します。
中島さんが家具のセンスに自信を持てなくなっているのは、占い師によってセンスを否定され続けたからなのかもしれません。
彼女は家具を買うときにさえ、自分では決められず、それが可愛いのかどうか、占い師に聞かずにはいられなかったのです。
そして、「あ、かわいいんじゃない? でもこれ高くない?」という何気ない言葉が、占い師の洗脳の手口だったのではないかと思います。
この、「あ、かわいいんじゃない? でもこれ高くない?」という言葉は、中島さんには、ふたつの矛盾した命令となって聞こえたはずです。
命令1:「これはかわいいので、買わなければいけない」
命令2:「これは高いので、買ってはいけない」
中島さんは、このピンクの家具を買わなければ、命令1に従わないことになりますし、買えば、命令2に従わないことになります。
洗脳というのは、逃げられない関係の相手から、矛盾した命令を投げられたときに起こります。
その矛盾を、矛盾ではなくそうとして自分を変える行為が、洗脳の原動力なのです。
それでは、中島さんは、これらの矛盾を解消するために、どのように自分を変えたのでしょうか?
「貯金を率先してなくす、という生き方を自分はしているのだ」と信じることで、占い師の矛盾から逃れたのです。
こう信じることで、命令2が、「これは高いが、自分は貯金を率先してなくしたいので、買っても良い」に変わったわけです。
この一言だけで、中島さんが散財するようになったとは思いませんが、占い師は、普段からこのような矛盾した命令を中島さんに投げ続けることで、彼女をコントロールしていたのではないかと思われます。
ついでに中島さんは、初めはピンクがかわいいかどうか自信がなかったにも関わらず、占い師に「かわいいんじゃない?」と言われた後、「自分がかわいいと思ったらやっぱり『よし!』って買うほうなんで」と、まるで「自分は最初からかわいいと思っていたし、他人の意見など関係ない」と言わんばかりの発言をしています。これは最初の「家具のセンスがあまりなくて」という発言と矛盾しています。本当は占い師に背中を押されたのに、本人はそれが、初めから自分の意見だったと認識しているわけです。これも洗脳の影響でしょう。
自分が矛盾してしまったとき、その矛盾を相手に納得させようとして、人は嘘をつきます。
デートの時間に遅れてしまったとき、嘘の言い訳をする人がいますが、これは普段送っている「あなたを愛しています」というメッセージと、デートに遅れることで送ってしまった「あなたは大切ではありません」という矛盾したメッセージを取り繕うためです。「○○の理由で遅れたのですから、あなたが大切ではないわけではありません」ということです。
反対に、自分にとって逃げられない関係にある人(家族、恋人、友人、上司、等)が矛盾しているとき、その矛盾を、自ら納得のできるように再解釈しようとして、人は洗脳されていきます。
デートの時間に相手が遅れてきたとき、相手が遅れてしまった理由を説明する前から、「仕事で疲れていたのかな」とか、「オシャレに時間がかかったのかな」などと自分に言い聞かせることがありますが、そうすることで、「あなたは大切ではないから遅れた」という可能性を考えないようにしているのです。
洗脳されている人の話を聞いていると、支離滅裂に聞こえることがありますが、それは決して言い逃れようとして嘘をついているからではなく、自分がさらされている圧倒的な矛盾から逃れようとして、必死にあがいている結果です。矛盾を「矛盾ではない」と解釈するには無理があるため、その無理が、支離滅裂な言葉となって出てくるのです。
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