「人の心を操る技術」のアマゾンでのランキングが、今日も急上昇していました。
昨日、メンタリストDaiGoさんの出演されたテレビ番組で、「メンタリズムの罠
TRICKS of the MIND」の著者であるダレン・ブラウン(Derren Brown)の名前が出たようで、その影響みたいです。
私がダレン・ブラウンのことを知ったのは、6年前、偶然にYoutubeで、こちらの動画を観たのがきっかけです。
街行く人を呼びとめ、道を聞くふりをしながら、時計や携帯、家の鍵を取ってしまうというパフォーマンスなのですが、これだけ短い時間の中で、いくつもの心理誘導が詰め込まれており、しかもそれが自然で、とても衝撃を受けました。
こんなに印象的なパフォーマンスを、彼はNLPや心理学の教科書に出てくるような、基本的なテクニックをただ組み合わせただけで行っていたのです。
当時、私は深いトランスに入れるような、伝統的な催眠は得意でしたが、このような日常的なコミュニケーションで行う誘導は、理屈は知っていても、あくまで催眠の補助的な手段として使うのみでした。
また、現代催眠の父と呼ばれたミルトン・エリクソンが、握手するだけで相手をトランスに入れてしまったというような逸話は多く知っていましたが、映像で観ても、それほどインパクトのあるものではありませんでした。
ですから、ダレン・ブラウンの動画を観て、彼のパフォーマンスにのめりこんで行きました。
「人は信じたいものを信じる」という言葉の通り、私はダレンのパフォーマンスを「催眠」だと信じたかったし、心理テクニックの組み合わせでそこまで実現できると信じたかったので、初めからマジックとしては見ていませんでした。彼自身がパフォーマンスの冒頭で、「このパフォーマンスは、マジック、暗示、心理学、誤認誘導、ショーマンシップを使って行われています」と明言しているにもかかわらず、です。
マジシャンが見れば、簡単に「このタネ、知ってるよ」と気づけるような、古典的なパフォーマンスさえ、「どこで誘導しているのだろう?」という視点で見ていました。
そして実際に、いくつかのパフォーマンスを再現できないかと、試したりもするようになりました。
彼のパフォーマンスは、年を重ねるごとにスケールが大きくなっていき、とても個人で再現できるものではなくなっていきました。
また、私のようなナイーブな人間でも、さすがに何度も見ているうちに、これは心理テクニックだけでは再現不可能だろうと気づくようになりました。ときどき開催していたダレン・ブラウン研究会でのディスカッションや、知り合いになったマジシャンの方に教えてもらって、マジックの部分を知るようにもなりました。
そうなってくると、もうすべてはマジックに見えてしまうのですが、例えば先ほどご紹介した、時計などを取ってしまうパフォーマンスは心理テクニックではなく、マジックだとしたら、これはもう「サクラ」しかあり得ないということになります。
しかしダレンはインタビューで「サクラを使うことはマジシャンとして超えてはいけないラインだ」と言っていますし、パフォーマンスの冒頭でも、はっきりと「サクラは使っていません」と明言しています。(それを信じるかどうかという問題もあるのですが、本当にサクラを使っているとしたら、これほど面白くないパフォーマンスもありませんので、私はサクラについては、彼の言葉を信じています。しかしそれも、彼のトリックかもしれません)
この辺りがダレンの面白さで、マジックを観るときには「マジシャンが失敗するはずがない」と思って安心して観ていられるのですが、ダレンの場合は、ガチで誘導している部分が(それほど多くないかもしれませんが)あるので、絶えず「本当に上手くいくのだろうか?」という緊張感があり、さらに引き込まれるのです。
そして、初期のパフォーマンスにおいて、実際にダレンは何回か失敗していますし、そのシーンも番組で流しており、ときには困り、ときには恥ずかしそうにし、ときには悔しがっています。
それらも含めて、信憑性を高めるための誤認誘導の可能性もありますが、ダレンの魅力は、パフォーマンスを通して、自分の価値観が激しく揺さぶられるところなのだと思います。そして視聴者は、否が応でも、自分の立場をはっきりさせる必要があります。心理テクニックとしてみるのか、マジックとしてみるのか、演者をサクラとしてみるのか、それらをどこで線引するのか。
「メンタリズムの罠
TRICKS of the MIND」を、私は以前、英語で読みました。
ダレンはこの本の中で、とても正直に自分の考え方や自分の目的を書いています。
これだけ自分で「魔法」を演じながら、それらに騙されないようにと啓蒙しています。
メンタリストDaiGoさんの登場で「メンタリズム」という言葉が知られるようになりましたが、DaiGoさんのパフォーマンスに興味を持たれた方には、是非、ダレンも知ってもらいたいなぁと思っています。
ちなみに、「人の心を操る技術」にも、ダレン・ブラウンの使っているテクニックがいくつか登場します。
マジックではなく、ガチの心理誘導ですので、日常生活で使えば、コミュニケーションが少しだけ楽になるかもしれません。
Copyright © Naoya Sakurai.
All Rights Reserved.