予備催眠
今日は催眠研究会の日でした。
Derren Brownのパフォーマンスをいくつか観たのですが、初めてDerrenを観たある方が、「これはショー催眠ですよね?」という質問をされました。
もちろん、バラエティですから、ショー催眠的なものなのですが、彼の質問の意図が判らなかったので、「ヤラセという意味でですか?」と聞くと、そうではなく、事前にカメラのまわっていないところで予備催眠があるのではないか、ということでした。
テレビの催眠術では、誘導シーンはほとんど放送されないし、「事前に予備催眠を受けています」という説明がされることもありますから、「いわゆる催眠術」しか観たことがない人にとっては、当然の質問かもしれません。
僕は彼の質問には、ふたつの大きな誤解があるのではないかと思いました。
ひとつ目は、「暗示に反応するには催眠にかかる必要がある」という誤解です。そしてこの誤解には、「催眠誘導とは、時間のかかるものだ」「催眠状態とは、目がトローンとした、居眠りのような状態である」「こんなに簡単に暗示に反応するわけがない」という誤解も含まれていると思います。
ふたつ目は、「催眠に入れば、どんな暗示にでも反応する」という誤解です。もちろん、彼は直接そう言った訳ではありませんが、言葉のニュアンスから、「予備催眠とは、事前に時間をかけて、誰かを操り人形にしておくこと」という前提が感じられました。だからこそ、予備催眠の終わっていない、ほとんど素の状態の人が容易に暗示に反応した様子を見て、驚いたのだろうし、これはガチではなく、何もかもがセットアップされたショー催眠だ、と思ったのでしょう。
でもこれらふたつの考えは間違いです。
Derrenのパフォーマンスは、カットされているシーンはあるにせよ(そしてそこで、会話的なアプローチがあるにせよ)、事前に予備催眠などしていません。ステージ催眠でさえ、したとしても、握手誘導をして終わりです。そして、いわゆる催眠術的なトランス抜きでも、十分に不思議な現象を起こしています。(もちろん、催眠とは関係のない、純粋なトリックもたくさんあります)
「予備催眠」という考え方は、とてもテレビ的な考え方で、それ自体がひとつの暗示になっていると思います。
つまり、テレビの催眠術のバラエティで、わざわざ事前に予備催眠をしていることを報告することは、「タレントが不思議な経験をしているのは十分な予備催眠があるからで、番組では予備催眠のシーンは省いているので視聴者は催眠にかかることはない」という暗示になっているわけです。予備催眠と言う名のブラックボックスがあって、それをテレビ局が見せるわけがないので、どうぞ皆さん、安心して催眠術バラエティを楽しんでください、ということなのでしょう。
同様に、「この番組を観て、視聴者の皆様が催眠にかかることはありません」というテロップが流れることもありますが、こちらも視聴者が催眠にかからないための暗示です。
予備催眠なんてなくても、テレビで放映されてしまっている誘導部分だけで、十分視聴者は催眠にかかりえます。また、一切誘導のシーンがなかったとしても、暗示に反応しているタレントを見るだけでも、被暗示性が高まって、同様のことが起こる可能性はあります。
僕は決して、催眠状態なんてない、と言うつもりはありませんが、「入った」とか「落ちた」とか、催眠状態そのものにこだわっているうちは、催眠はうまくならないと思っています。
催眠状態にならなくても人は暗示に反応するし、催眠状態になっても、反応しない暗示には反応しない。
それだけのことなのです。